コラム

コラム

ソーシャルビジネス事例~株式会社Lean on Me

障がい福祉サービス従業者向けeラーニング研修のソーシャルビジネスを展開する株式会社Lean on Me の代表取締役の志村駿介さんにお話を伺いました。

事業を立ち上げられたきっかけ、フォーカスした社会課題

もともと2つの考え方がありまして、1つは経済的な点、もう1つは社会課題に気付いたという点です。

一つめの経済的な面についてですが、私は母子家庭で育ちまして、弟がダウン症という障がいがあります。大学生のとき、そのまま就職をした場合の生涯賃金を考えたら2億円から3億円ということがわかり、それだと母と弟を養えないのではないかと思い、独立ということを考え始めました。

では、何をするかというところなのですが、自分は推薦入学で高校、大学とテニスをやっていて、卒業後はプロテニスへの道がありました。プロ以外に実業団に入ってテニスをやるという道もあったのですが、そこで考えたことは、「プロテニスプレーヤー」は自分じゃなくてもなれることだと思いました。


何故かというと、高校3年生の時にアメリカのフロリダ州にあるニックボロテリーという錦織圭選手も行っているテニスアカデミーに1ケ月ほど行きました。そこで感じたことは、世界各国のプロテニスプレーヤーや次世代のプロ選手が集まり、世界レベルの中で日々鍛錬しており、日本のレベルとはすごく格段の差があることを痛感し、日本でプロになるということの面白みというものが薄れてしまいました。

家庭環境のこともあるので、海外にずっと住み込んでテニスをやるというのも難しく、日本でプロ活動するくらいだったら、他のことをしようと考え始めました。

二つめに、自分の生きてきた人生を振り返って、譲れなかった部分は何だろうかと考え、突き詰めたところが弟の存在でした。弟を子どもの時からずっと見てきているのですが、弟に何かをされたりとか、虐待を受けたりとかした時は許せませんでした。それをたどっていくと、障がい者に対して理解者がとても少ないということを感じ、自分が譲れない部分、すなわち障がい者への無理解ということが社会問題であるというふうに感じまして、それに携わる何かをしていきたいと考え始めました。これが、2つ目のきっかけです。

大学を卒業して一度、大企業に就職し、ものすごくきっちりしたマニュアルで仕事のイロハを覚えました。その後、障がい福祉施設で働くようになったのですが、大企業と違い「まず、現場で働いて仕事を覚えて下さい。」と言われました。そういう教育方法によって、現場で何をしていいか分からない、障がいのある人にどう接していいか分からないという新人職員は、必然的に虐待ということを起こしてしまっていることを目の当たりにしました。

新人時代に仕事を教えてもらってなかったことから、中堅の職員の方や管理職の方も教え方ということを分かっていなかったという、根本的な社会課題に気付きました。自分が入った施設だけの問題なら、自分がそこに入り込んでそれを解決すればいいと考えましたが、この問題は全国の施設を見学させてもらったところ、どこも同じ状態でした。


では何故、従業員研修をすることができないのかという理由ですが、まず人手不足ということがあります。それから24時間のサービスを提供しているところは、従業員が職場を離れることができない、また全員を集めて同じ時間に研修をするのは、まず難しいということが分かりました。

その対策として何ができるかというところで「eラーニング」を思いつきました。パソコン、タブレット、スマホを使って空いている時間にオンラインで学習していけるというスタイルの研修です。これが、この障がい者福祉施設の業界には必要だと思い、2016年4月にこの事業をスタートさせました。
社名のLean on Meとは、“寄り添う、自分に頼っていいよ”という意味です。

事業を立ち上げられたきっかけ、フォーカスした社会課題

事業理念、具体的な事業

会社の経営理念としては、「障がい者にやさしい街づくり」としています。実は、障がい者にこだわる必要は無くて、海外から日本に来ている外国人や高齢者の方など、街なかで困っている人は無数にいると思います。ただ、助ける人が少ないのではないかと思います。
特に、知的障がいのある方や発達障がいのある方が街なかで困っている時に、どう接していいか分からない、どう助けていいか分からないという面があり、なかなか手を差し伸べる人が少ないです。

そのような場面で、困っていたら助けてあげられるようなことを、うちの会社から発信していけたらいいなということで、こういう理念を掲げています。

eラーニングの研修プログラム開発にあたっては、2015年の春にアメリカのオレゴン州に行ってきました。オレゴン州はものすごく障がい者支援の水準が高く、現地で行われていた研修を見せて頂き、そのエッセンスを元に体系的に日本の法律に合わせて研修プログラムを作りました。
これを、従業員の方に受講してもらうことにより、スキルの向上であったり、障がい者への理解につなげていこうというものです。
大きく効果的なのは、障がい者の権利というところで、それを尊重してもらえるものになるということです。

eラーニングだけでは物足りないというところも実際にあるので、実技の研修を組み合わせて提供させて頂いたりもしています。eラーニングで基礎部分を学習して頂いた後に、実技研修で実際の応用編であったり、事例であったりということを進めていくことで、研修が定着しやすい環境を作っています。

eラーニングの具体的な問題の一例をあげてみましょう。
例えば、Rights(ライト)プログラムの第2章にある、「障がいのある方の権利」という項目では、アメリカで実際に行われている支援の中から障がいのある方の性に対することや恋人に会う権利のことなどアメリカのエッセンスがつまった内容を提供しています。
第3章にある、「虐待の事例とその捉え方」という項目でも、「虐待をしてはダメ!」ということは言わずに、「虐待をすることによってあなたは何を失いますか?」ということについて考えてもらう内容になっています。

事業の成果

研修を受けられたお客様からの声をご紹介したいと思います。

受講した従業員の方からは、次のような声を頂いています。
「今までは障がいのある人と、どう接していいか分からなかった。また支援の仕方がまったく分からなかった中で、みんな手探りをしながらトライしていた。eラーニングを受講したことにより、障がいのある人の権利を学ぶことができた。また支援という立場になると面倒をみてあげているという優位に立っている感覚に陥り、無意識のうちに権利の尊重というところをおろそかにしていたという気づきがあった。人権に関して、違った角度からの情報がたくさんあったので、必然的に障がいのある人の権利を尊重するような支援を心がけてできるようになった。」

管理責任者の方からは次のような声が寄せられています。
「今まで、研修などはしてこなかったが、今回研修をしていくことによって、従業員の知識が身についていって、支援の対応に自信がついてきたようで、その自信がモチベーションアップにつながり、仕事のやり変え、変化というところが見え始めた。」

事業の成果

現状の課題と考えておられるその対応策

研修と聞くと、意識の高い人は積極的に学習をしてくれます。中堅の方だと、どちらかというと学習はするが、そこまで意欲的ではありません。最後に「研修なんてどうでもいい」と思っている層の方が居られます。
職場でしっかりやって頂きたいのはこの最後の層の方たち、障がい者の自立ということを本当に考えられていない支援者の方に意識を変えてもらいたいというところに課題があります。

その課題解決をどのようにやっていくかということですが、「自分で意見を言う」「自分で考える」という習慣を身につけて頂くのが一番だと考えています。
意欲的にインプットをするにはアウトプットをする場をたくさん持つことが必要です。

そこで、意見交換会というのを設けまして、ディスカッションしていただいています。それは1つの事業所から集まってするのではなく、色々な事業所から「先輩・後輩」のペアで参加していただき、1つのテーマについて考えてもらい、そこで自分の考えを発言する場を設けます。後輩職員が他の事業所の先輩に質問をしたり、先輩同士で意見交換をしたりと事業所間の壁を通り越して、障がいのある方の支援について考えていただいています。
その中で発言するためには、しっかりと考えなくてはならないということから、研修を受講しなくてはという意識を持っていってもらっています。

ご苦労や嬉しかったことなど

一番最初のお客様ですが、eラーニング自体がまったく分からないという状態でした。パソコンやスマホで研修が受けられるというところで理解に苦しまれたので、そこで自分を信じてもらって試してもらったところ「なるほど、良かったです!」というお声を頂いきました。
最先端の研修に取り組むことによって、従業員の意識が同じベクトルに向かい、一つにまとまったというお声を頂きました。

今まで個人の感覚で障がいのある方の支援をしており、皆さんモチベーションもバラバラだったところが、同じ方向に向けたというのは、すごく社会にとっても、事業所にとってもいいことだったので、そういうお話が聞けたのは、本当に嬉しかったです。

今後の展開計画や将来の夢

今後は、知的・発達障がいのある方との接し方について社会に発信していけるようにたくさんの事業所さまと提携していきながら何かインパクトのあることをしていきたいと考えています。世の中の半数以上の方が「障がいについての理解」が無いということは、障がいのある方が社会で生きていく上での「障害」になっています。

例えば、障がい者雇用を率先する会社さんは経営者の方の意識が高いのですが、現場の方からすると「障がい者が、また来たで・・・」というように温度差があり、加えて、現場は仕事の負担が大きくなったり、またどう接していいか分からなくなったりして、街なかで起きていることと同じ問題が、その会社でも起こってしまいます。

これを考えるようになったきっかけは、私の弟の同級生の経験にあります。その同級生は、あるところに就職し、主に清掃の仕事をしていました。ところがある日、炎天下の中で掃除をしていたのですが、その人は「止めてもいいよ」と言われるまで没頭して仕事をするタイプなので、結果、炎天下の中で倒れてしまい救急車で運ばれ、退院しても仕事に復帰できない身体になってしまいました。

この現状は、周囲のスタッフが「もう止めてもいいよ」という一言で起きなかった事故でした。
そういった小さなことでも、弊社として力になっていければという思いで、考えています。

株式会社Lean on Me のホームページ


インタビュー

ソシオ・プロダクツ 菊地健