コラム

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途上国の命を救う、住友化学のオリセットネット

 「ソーシャルビジネス」「社会的事業」という言葉が日本で誕生して10年以上が経過した。これは従来、市民活動として社会課題解決を目指して進めてきたものを、より持続性ある形の一つとして「社会課題を事業というビジネスモデルで解決し、その事業も持続的に発展していく」というあり方に転換されだしたものだと思う。


 メーカーにとっては「ソーシャルビジネス」といえば、今ひとつピンとこない言葉であるが、これを「ソーシャルプロダクツ」(社会的価値ある製品)と言い変えることにより、社会でもまた、企業内でも受け入れやすいものになるであろう。

住友化学の「オリセットネット」というソーシャルプロダクツ事例を考えてみたい。現在、オリセットネットという蚊帳(かや)は、アフリカを中心とした世界の三大感染症の一つ「マラリア」への感染予防に大きな役割を果たしている。

 世界三大感染症とは、マラリア・HIV/エイズ・結核を指すが、その中で最も感染・発症者が多いのがマラリアである。国連推計などから2013年のマラリアの感染・発症者数は約2億人。そのうち死亡者は58万人と言われている。そしてその98%がアフリカのサハラ以南で発生し、犠牲者の多くは5歳以下の子どもたちだ。原因はマラリア原虫を媒介するハマダラ蚊であった。これらの命を救いだしたのが、蚊帳に殺虫剤処理をした住友化学のオリセットネットである。

 
 1985年当時、「蚊帳に殺虫剤処理をすると蚊の駆除に有効である」とする論文が世界で相次いで出されていたことから、住友化学もその研究を地道に進めていた。しかし当時の殺虫剤処理をした蚊帳は洗うと薬が流れてしまい、半年に1回蚊帳を薬の溶液に浸さなければならず、その方式はなかなか普及しなかった。同時に先進国からも大量の蚊帳が途上国に提供されていたが、これも同様の理由で役に立たなかった。

 網戸を作る技術は確立されており、5年以上は効果が持続するものだった。それを蚊帳に応用するにはアフリカでは、通気性の問題から実用には不向きであった。そこで「網の目を広げよう」と考え試行錯誤を繰り返し、2mm間隔の網の目を4mmまで広げても、体長2mmのハマダラ蚊は殺虫剤の効果でネットに当たるだけで落ちてしまうことが分かった。

実験を重ね、蚊帳の機能と通気性の両方を満たすギリギリの選択が4mm間隔であった。


 開発、製造されたオリセットネットは、2001年には世界保健機関(WHO)から、世界で初めて長期残存効果型蚊帳としての効果が認められ、使用が推奨された。現在、国連児童基金(UNICEF)などの国際機関を通じて、80以上の国々に供給されている。蚊帳の開発に必要だったのは、最先端の技術ではなく素材と駆除という2つの技術の融合であった。    

住友グループには「自利利他公私一如」という事業精神の特徴を表す言葉がある。利他の精神を着実に実現したオリセットネットである。

 

 

ソシオ・プロダクツ 菊地 健